保育所を複合させることの意味について一言!

 

 
◆これまで出題された複合施設から考えること

ここ数年の出題で複合施設と言えるものとして、平成11年の「高齢者施設を併設した集合住宅」、平成13年の「集合住宅と店舗からなる複合施設(3階建)」があげられます。
平成11年は課題タイトルこそ複合施設ではありませんが、異なる機能が1つの建築物として、共用できる部分と共用できない部分とを合わせ持っているという意味では、平成13年と同様の建築的構成が求められていたと言えます。
また、両課題で共通しているのは、集合住宅という機能が複合施設の一要素となっていることです。

住宅にはプライバシーが求められますので、共用廊下と言えど不特定多数の人が簡単に入ってこれるようでは、不都合もあります。
この点を示唆していると読み取れるキーワードを、各課題の条件から抽出してみます。
(「異なる機能を適切にゾーニングした計画」といった常套句は除きます。)
平成11年の「管理区分が明快な計画」、平成13年の「防犯に配慮した計画」から、高齢者施設や店舗などの利用者の動線と集合住宅の動線とで相容れないところに一線を引くことが求められていたと考えます。

◆保育所を複合させることの意味

「保育所」が取り上げられた背景には、平成11年度に国が政策として掲げた「新エンゼルプラン」があると思います。
延長保育、休日保育、子育て支援センターなどの箇所数を、平成16年度までの数値目標として掲げています。

このような社会的背景は別にして、一級建築士の試験課題としての「保育所」の意味を考えてみます。
複合施設でない単体の幼稚園や保育園(法律上は保育所)の特徴を整理すると、敷地の周囲はフェンスで囲まれ、敷地への出入口には門扉があります。
このように不特定多数が簡単に入ってこれないようにしておくことで、防犯措置が取られていると言えます。
複合施設となって、保育所が1階にある場合、2階にある場合、3階にある場合など色々な組合せが考えられます。
こういった場合においても、保育所の防犯上の基本は変わらないわけですから、その点を十分考え、ゾーニング・動線計画を詰めていくことが重要です。
エントランスホールや縦の動線となるEVなど、他の機能と共用できるのかできないのか、どこまでなら許容できるのかといった点を常識に基づいて見極める想像力が求められてくると思います。
勿論、エントランスなどを共用するのかしないのかといったことは、課題の条件設定で出題者側が明らかにすべきことですが、どこからが保育所のゾーンになるのか?またはすべきか?どういった建築の姿が要求されているのか?その点をしっかり読み取り整理した上で組立てていく必要があります

ここで、過去の出題で複合されている集合住宅と比較してみますと、上にも書きました「他の用途の利用者の動線と保育所の動線とで相容れないところに一線を引く」という点が共通していると考えます。
このようなことから、試験課題として、複合化する上で集合住宅と同様の配慮を必要とする「保育所」という機能を取り上げてきた意味もわかるような気がします。

神奈川県の相模原市に、1階が店舗、2階がデイサービスセンター、3階がデイサービスと同じ社会福祉法人が運営する保育園、4階以上がマンションといった複合施設があります。
敷地は3面道路に面していますが、各機能へのアプローチ、動線を矛盾なく整理し、計画されていると思いました。(見学させて頂いての感想)

◆複合施設の難しい点

今年の設計課題「保育所のある複合施設」では、保育所へのアプローチ、その他複合される機能へのアプローチ、条件設定によっては管理・サービスアプローチなどが建築物へのアプローチとして考えられます。
これらをどう設定するかで、建築内部のゾーニングが決ってきます。
アプローチ〜ゾーニングが決定されると、その先は所要室を条件に基づいて配置していくことになります。
しかし、複合施設で難しいところは、アプローチの選択が複数あり、どう決定していくと内部がまとまりやすくなるのか、なかなか見通しが立てられないことがあげられます。
アプローチ・階段・EV、吹抜などの建築物の骨格が決まってしまえば、その先の展開は誰がやっても同じような配置になってくるはずです。
階段・EVは、上階の動線の起点となりますし、吹抜によって上階の床の形態が決まりますので、これらの取り方で、その先の展開は、難しくもなるし易しくもできます。
できあがった図面が、解答例とほとんど同じになることがあるのは、骨格を決定するこれらの要因の配置を、与条件の中で誘導しているからだと思います。
これは課題をつくる側のテクニックになりますが、解答例を1つ決めておいて、この方向に誘導する条件づくりは可能です。
逆に、骨格の方向性をいくつか検討した結果、条件を決定していけば、何通りかの解答方法(ある程度うまくまとまっていく方向)が可能になります。
ちなみに建築士の塾では、後者の方法で課題をつくっています。
このことは、決して課題がやさしく如何様にもまとめられる(所要室に対する制約条件が緩い)ということではありません。
むしろ、正解のないところに、自ら解に辿り着く道筋を切り開いていかなければならないのですから、その分難しいとも言えます。
このことは、本試験の難しさに象徴されているのではないでしょうか。

以上、色々と書きましたが、課題に取り組む上で大事なことは、取り組んだ課題から何が訓練できていて、何が訓練できていないか自覚しておくことだと思います。
「複合施設」の複合のさせ方には、いくつかのケースが考えられますので、偏重しない取り組みも大切です。

ご意見・ご質問などあれば、kito@archicom.co.jpまでご連絡下さい。

2003年8月25日
建築士の塾 木藤浩実


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